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文菜華オリジナル 箸置き
金工作家 宮田 琴 さん
第2弾はお箸と蓮華を一緒に置ける、「文菜華オリジナル 箸置き」の物語。制作にまつわるお話を金工作家の宮田琴さんに伺いました。
コラボレーション作品は
人と人の密なコミュニケーションなしでは生まれない
コラボレーション作品は
人と人の密なコミュニケーションなしでは
生まれない
今回、文菜華から「箸と蓮華を一緒に置ける箸置きのようなものを作って欲しい」と相談したのは柏に拠点を持つ、金工作家の宮田琴さん。銅を使った作品を多く作られている宮田さんに依頼を考えた理由の一つは、銅の持つ抗菌作用です。文菜華はコロナ禍において、高い水準で新型コロナ感染拡大防止への取り組みを行ってきました。現在でも気を緩めることなく、衛生面には力を入れていきたいとの想いから、抗菌効果が期待できる銅の箸置きにこだわりました。
お声掛けしたのはまだ新店舗ができる前だったため、店舗のデザインに合うビジュアルを造るのが難しかったと思います。相談から完成までは半年以上かかりました。


宮田さんはいつも完成した作品は型紙、手順、長さや角度、などをまとめたレシピを作って、後から同じものを再現できるようにしているのだそうです。今回のレシピもちらっと見せていただきました。一緒に写っているのがサンプルの数々です。
こうして多くの苦労を重ねて完成にたどり着いたのですが、結果的に素晴らしい作品に仕上げていただきました。
「こだわりを持っている同士がすり合わせを重ねて作り上げていく、という過程がとても面白かったです。新しい発見もたくさんありました。なにより、コラボレーション作品は、人と人のコミュニケーションで生まれるということを実感しましたね。アトリエと文菜華さんはすぐに行ける距離なので、ちょっと見てもらいたい時にはすぐにアトリエに来ていただきました。そういう人と人の空気感が大事で、それが作品作りの熱意にかかわってくると感じました。単純に1人+1人=2人ではなく、数人分のパワーになっていく、お互いが尊重し合える時間でした。初めてのチャレンジをさせてもらって、素晴らしい経験をさせていただきました」(宮田さん)
金工作家・宮田琴さんとは

今回コラボレーションしていただいた宮田琴さんについてご紹介します。
新潟県の佐渡をルーツに持つ宮田さんのご実家は、佐渡に伝わる金属工芸「蝋型鋳金」の技術を受け継いでこられています。また、金工作家であり、第22代文化庁長官を務められたお父様の宮田亮平氏の展覧会には琴さんも小さい時から年間通して何回も行っていたそうです。また、亮平氏が制作物を家に持ち帰ってくることも多く、作品を作っている姿を見たり道具を触らせてもらったりもしていたとか。
「日常にアートがあったので、進路を決める時は何か作りたいな、表現していきたいと思うようになっていましたので、ごく自然に美大への進学を決めることができました。大学では染色、陶器、漆、鍛金、彫金、鋳金など、さまざまな工芸を経験して、漆で造形作品を作りたいと思ったこともありましたが、最終的に金工の面白さを見つけたという感じです。
私は金工作家ではありますが、伝統工芸である鍛金(たんきん)という技術も大切にしています。鍛金は金属の板をたたいて立体的なものを作り上げる技術で、力仕事なので男性的です。さらに言えば伝統工芸って敷居が高いイメージがありますよね。そのイメージを変えたくて、私にしかできない表現で伝統工芸を伝えていきたいという想いがあります」(宮田さん)
宮田さんにしかできない表現、それは彼女のオリジナルの作品を見るととてもよくわかります。
「まず、素材としては柔らかく自由に変形することができる銅を使っています。それを何千何万回と叩いて、造形し、仕上げに磨いていくときれいなピンク色になるんです。この色をフックにして、さらにハートというココロそのものの形を使って「金属のあたたかさ」を伝えていければと考えました。 使う素材は銅以外にもアルミ、真鍮、など金工に使う金属はそれぞれ特徴があって、その特徴を活かした作品を作っています。表面処理にもいろんな方法があるのですが、例えば銅はそのままだと変色してしまうので、表面処理をすることでずっときれいな色を保つことができます。その塗装の素材一 つとっても、伝統的なものから新しい素材を使ったものまであるので、仕上げについても考えること は多いですね」(宮田さん)



代表作品の「ハートのぐい呑み」のように、宮田さんの作品は日常使いできるものが多くみられますが、それは結婚して家族ができてから、日常生活をするうえでもっと手近にあるもので自分の想いを伝えられるのではないかという気付きからだそう。アートは敷居が高く、美術館に行かないと観れないとか、美術の知識がないといけないのではないかと思われがちなため、一部の人にしか届かないこともあるかもしれない。逆に、伝統工芸やアートを身近に感じてもらうなら、日常にあるもの、いつも使うものを作っていくことで、宮田さんなりの表現ができると思ったからなのだとか。
例えば、現在、ふるさと納税の返礼品に登録されている「銅とさわらの珈琲ドリッパー」ですが、これは日常的だけど造形として美しい、そして卓越した技術も使われています。
「せっかく自宅でコーヒーを淹れるのなら、きれいなものを使いたいじゃないですか?また、お客様が来てコーヒーを出す時も、席を離れずにテーブルの上でコーヒーを淹れても素敵だと思うんです。
そういう風に表に出ていても見て楽しめて、なおかつ機能性も考慮したデザインの作品を心がけて作っています」(宮田さん)

かわいいだけで終わらせない、
未来につながる価値ある作品を伝えていきたい
今、制作しているのがこのアルミの小皿。さりげないハート型なのでおめでたいことにも喜ばれており、引き出物用に 30 枚作っているところなのだとか。
「和菓子でも洋菓子でもパンでもなんでも似合うお皿ですが、最近、お客様がお刺身を盛った写真を送ってきてくれて、私の発想には無かった使い方を楽しんでくださっていることを教えてくださいました。また、薄くて割れない上に軽い、重ねてもかさばらないということで、美術館のギャラリーカフェでお菓子皿にと注文が入ったこともありました。」

使う時だけでなく、使わない時に飾っておいても愛でる価値があり、また、可愛いだけでなく、伝統という価値を見出すことができる、そんな作品を生み出していきたいと語る宮田さんですが、その創作のモチベーションとなっているのは、“相反する事柄”なのだとか。
「例えば、伝統と現代、職人世界の男性と女性、無機質で冷たい金属とあたたかみのある金属、金鎚を使った作業を“剛”とするなら、仕上がった作品は“華”、このように相反している事に向き合い、挑戦することが原動力になっています。
また、次の世代にその価値を作品を通して伝えていくことで未来が華やぎ、心が高揚するような…そういうことができるのが“ものづくり”の楽しいところであり、それに携わっていられることが幸せだと最近思うようになりました」と宮田さん。
今後も未来へとつながる作品が、文菜華のテーブルを飾ってくださるのを楽しみにしています!

profile
宮田 琴(みやた こと)
1976 年 東京に生まれる
1996 年 武蔵野美術大学工芸工業デザイン科 入学(’98 年中退)
2004 年 東京藝術大学大学院 修士課程工芸専攻(鍛金)大学院 修了
2005 年 東京藝術大学大学院 鍛金研究室 研究生 終了
2009 年〜 日本伝統工芸美術会 会員
2014 年〜 女子学院 非常勤講師
2019 年 東京都販売普及促進事業プロジェクト 「東京手仕事」認定
2019 年 「コーヒードリッパー」柏市ふるさと納税返礼品 認定
profile
宮田 琴(みやた こと)
1976 年 東京に生まれる
1996 年 武蔵野美術大学
工芸工業デザイン科 入学(’98 年中退)
2004 年 東京藝術大学大学院
修士課程工芸専攻(鍛金)大学院 修了
2005 年 東京藝術大学大学院
鍛金研究室 研究生 終了
2009 年〜日本伝統工芸美術会 会員
2014 年〜女子学院 非常勤講師
2019 年 東京都販売普及促進事業
プロジェクト「東京手仕事」認定
2019 年 「コーヒードリッパー」
柏市ふるさと納税返礼品 認定
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+ 01 陶芸家「笠原 りょうこ 様」
柏の植物をモチーフにした文菜華の茶器を手掛ける