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土が好き。植物が好き。それを表現する手段として陶芸を選んだのかもしれない
土が好き。植物が好き。
それを表現する手段として
陶芸を選んだのかもしれない
陶芸家 笠原りょうこ さん
profile 笠原りょうこ
岡山県倉敷市出身 陶芸家・十河隆史氏に師事。アシスタントを勤めた後、独立。千葉県松戸市に移住。
2018 年に柏市に住居兼工房を構え、制作活動に専念。展示会や陶芸教室なども多数開催。
陶芸の道に進むまで
――笠原さんは岡山ご出身ということですが、陶芸の道に進まれるには備前焼の影響などもあったのでしょうか?陶芸を始めたきっかけを教えてください。
岡山でも倉敷は西側なので、私自身にはそれほど備前焼の影響は無いです。ただ、どの家も一つは備前焼がある環境だったとは思います。陶芸を始める前は植物を育てるのが好きで園芸店で働いていました。でも、ものづくりも好 きだったので陶芸を習っていたのですが、習い事だとろくろが使えないとか、釉薬も選択肢 が少ないなど、制限が多い上に作業時間が少ないので作るものも限られてしまう。自分でも っと作りたい!と思って、知り合いに相談したところ、当時、玉野に窯を持つ陶芸家、十河 隆史(そごうたかし)さんのアシスタントを探していらっしゃるということで、ぜひお願い します!とそこから3年間、十河先生のアシスタントをしながら陶芸のいろはを教えてい ただきました。
3年経って、いよいよ独立というタイミングで十河先生が窯を買い替えるため、古い窯をい ただいて自宅の駐車場に設置しました。それが私の初めての工房です。でも、3年なんてま だ作家性もないし、技術もない。そこで作っては悩み、悩んでは作り…の繰り返しでしたね。 なんでこうなるんだろう?なぜ割れる?など、一人で悩んでも失敗の原因がわからないの で、しばらく十河先生にかかわっていただいていました。今も調べてもわからないことは都度聞いて教えてもらっています。
――その後、東京に移住されましたが、どうしてでしょう?
はい、1年ほど自宅駐車場の工房でひたすら作っていたのですが、とにかく田舎なので、気がついたら一日誰とも話してない!と焦るんです。他の人と会うこともないし。すでに陶芸家として確立されている方が籠るのは良いのでしょうが、私はまだ何者でもないので、このままここに居たら駄目だ、ここを出た方がいいなと決心しました。とはいえ、瀬戸や多治見などの焼き物の産地に行くには伝手もないし、迷った挙句、とりあえず1年間、東京でいろいろな作品を見て、目を養うインプットの時間を持とうと決めたのです。そこで自分がどういうものを作りたいか一度真っ白にして、作りたいものが見つかったらその時点で動き始めようと。ただ、都内を探してみると家賃が高くて、結局、都内に出るのも便利でちょうどよかったのが松戸だったんです。
インプット期間を乗り越えて、創作活動再開
――柏で工房を開いたことはご自身の作品に影響はありましたか?
充電期間を経て、「やっぱり作りたい!」という気持ちになって、馬橋でシェアアトリエを借りて、窯も買って再開しました。そこでさらに何を作るかまだ模索していましたね。
今から5年前にこの工房に移りまして、柏でいろんな方と交流を持てるようになったことで作品の幅も広がりました。もともとアート系に興味があったのでオブジェや壺しか作っていなかったんですが、柏に来てから器を作り始めたんです。
なぜ器かというと、ここに来てびっくりするほど料理人の方と知り合うことが多くて。料理人の方がInstagramなどのDMで連絡をくださって、お皿を購入してくれることもありました。岡山の時は田舎すぎてお店もなかったから、そういう方々とつながることもなかったのですけど(笑)
最初は友人のご主人が料理人で、その方の方向性が私と似ていて非常にわかりあえる感じ だったんです。その方から「ジビエをイベントで出すので、それに合うお皿を作って欲しい」 とお願いがあり、そこで初めて盛り付ける料理に合わせて器を作るということをしました。 また、そのイベントの様子が SNS などで広がって、さらに器についての問い合わせが来る ことになったので驚きました。
――なるほど、そこから器づくりが始まったという…
そういうコラボレーションの依頼が増えていって、じわじわと器を作る方向になっていったのですが、現在はアート作品と器を半々くらいで制作しています。私自身は植物が好きなので、花器などの方向で突き詰めていきたいと考えていて…。それは植物を扱う仕事から焼き物を作る人になった私の人生のさまざまなシーンが、花器を作ることで全てつながるんです。
でも、「料理と器」の関係って、「植物と花器」の関係と同じだと思います。
例えば、ひょうたんを実家で育ててて、そのふくらみとかフォルムが好きなので形や色味を真似て花器を作るなど、そういう自然の形を愛でるところからアイデアを得ることが多いです。あるいは桔梗が咲いていて、それを飾るにはどういう花器がいいかなと考える。料理の場合も同じで、どんな器だったら映えるだろうか?イメージしながら器を選んだり作ったりするわけで…本質的なところは同じではないかと。
文菜華とのコラボレーションで茶器を制作
文菜華とのコラボレーションで
茶器を制作
――そのあたりから文菜華さんとのコラボに関わってくるんですね。
私の作品を見つけて渡辺さんからご連絡いただき、わざわざアトリエに来てくださったんです。お店をリニューアルした機会に中国茶に力を入れるので、茶器もオリジナルを検討しているところと。その時に、ちょうど子ども向けの教室で作った作品が並んでいたのですが、渡辺さんがそれを見て「これはいいね」と。まだ粘土の状態で器に植物を貼り付けてそのまま焼いて柄を付けたもので、植物が燃えて無くなったところに形が残るんです。植物は自然のものなので全て形が違うし、季節でも変わりますし…日本の植物をモチーフにした茶器にしようということになりました。
春バージョンは、ナズナ、カラスノエンドウ、ドクダミの3種類の植物を使っています。
ドクダミは葉っぱもハート、花も可愛い。カラスノエンドウもツルが可愛い。日本に古くからあるような植物を使うのが新鮮なのではないでしょうか。秋冬バージョンは1種類の器に3つずつの植物を使ったので、文菜華のみなさん名前を覚えきれないようでした(笑)
実はこういう手法をワークショップでは教えていましたが、それを自分の作品にするなどは考えてなかったんです。そもそも模様を付けた作品も作っていなかったですね。
今回、渡辺さんと一緒に考えて作りましたが、私一人だとなかなか出てこないアイデアがいっぱいで、とても勉強になりました。新たな扉を開いてもらったという感じです。器の形は私が考えていますが、そこにこれらを入れてみよう、というのは渡辺さんのアイデア。一緒にお仕事するのがとても面白かったです。
行きつくところは「土」
――ところで、作品に使う土は何か決めていますか?
基本的には私の故郷の粘土です。こちらに来るまでは自分で掘って生成して使っていました。土は買えるんですけれど、それでは面白くないというか…。
釉薬も植物の灰から作っています。植物の種類で色が変わるんですよ。実家がブドウを作っているので、その剪定した枝を燃やして灰にして釉薬にすることが多いです。それこそ自然のものなので焼いてみないとどうなるかわからないです。だから出来上がりが不安定ではあるし、同じものは作れないので、商品としては難しいかもしれないけど、作るのは面白いんですよね。
なので、今は実家のブドウ畑から掘った土を送ってもらっています。こっちだと無断で掘ったら捕まりますよね、土も所有者がいるので(笑)
あと、関東は灰が堆積していてちょっと掘っただけでは粘土が採れないというのもありますね
――今、これから面白くなりそうなプロジェクトに参加されているとか?
まだどうなるかわからないのですけど…柏の土で「布施焼」を作ろうというプロジェクトです。柏市周辺は工事現場から土器などが発見されることが多く、いろんなところで発掘調査をしているそうです。その時、かなり深く掘るので、そこから出てきた粘土を使ってあけぼの山農業公園にある窯で焼く「布施焼」を作ろうという試みです。
ただ、関東の土は耐火度が弱いため、土をそのまま使うのは難しく、他の土とブレンドしないと焼いた時に割れやすいんです。
軽くて独特な色です。これは釉薬をかけてないのですが、窯は薪で燃やすので、その灰が器に降って溶けて灰と粘土がお互い溶けてこういう渋くていい色に焼き締まります。そういうのが土の面白さだなと感じています。
――土のことになると熱弁になりますね!
私、土が好きなんですよね。形を作る以前の素材自体に興味があるのかな。土を調べていくと昔の地形に行きつきます。それは園芸でも活かされる知識で、「土づくり」という共通項で、ここでも園芸からの陶芸というシーンがつながります。
でも、岡山の土は質感が好きだから使っているだけで固執はしていません。その時にいいなと思うものを使っています。釉薬も同じですが、あまり自分の作品には釉薬を使わない焼き締めが多いです。土そのものの色が好きなので。
そもそも、小さいころから化石とか考古学好きでした。陶芸をやっていなかったら考古学の道に進んでいたのではないでしょうか。とにかく土が好き。土の表情が見えるような作品を作りたかったんだと思うと、自分のやってきたことに納得します。
これからは花器と壺だけの展示もしてみたいです。花器は花を活けることで見え方が違ってくるので、華道やアレンジメントなど、花を専門とする方とのコラボなどもやってみたいですね。
聞き手:ライター 加藤良子